歯科医院・クリニックを開業する際、多くの方は「できるだけコストを抑えたい」と考えるのではないでしょうか。初期費用を抑える方法の一つとして、居抜き物件の選択があります。
居抜き物件は低コストで開業に適していますが、その一方で、デメリットや注意点も理解しておく必要があります。居抜き物件の特徴を十分に理解したうえで、メリットとデメリットを比較検討することが重要です。
この記事では、居抜き物件の特徴やメリット・デメリット、居抜き物件を選ぶ際のチェックポイントについて解説します。
歯科医院・クリニックを開業する際の物件の種類
歯科医院・クリニックを開業する際に選択できる物件の種類はさまざまです。それぞれに独自の特徴と利点があり、開業の目的や予算に応じて最適な選択をすることが重要です。以下では、代表的な物件のタイプを3つ紹介し、それぞれの特徴と考慮すべき点を詳しく見ていきましょう。
1.テナント物件
テナント物件は、商店街や商業ビル、商業施設などの店舗用物件を借りて開業するタイプです。最近では、医療に特化した医療モールにもあります。駅周辺やショッピングモールなど人が多く集まる場所に位置しているため、集患面で期待ができます。物件数も豊富ですが、条件の良い物件は保証金や賃料が高くなる傾向があります。そのため、見込み患者数と賃料のバランスを考慮して検討する必要があります。
2.戸建て物件
戸建て物件は、何もない状態から建物を新築して開業するタイプで、設計の自由度が高いのが特徴です。自宅と診療所の一体化も可能で、思い通りの歯科医院・クリニックを構築できます。自院のブランディングや将来的な設備拡張などの面を見据えてプランニングするのに適しています。
しかし、他のタイプの物件と比べて初期投資が大きく、建設にも時間がかかります。また、場所によって集客率に大きく影響することから、資金計画と立地選びには特に注意が必要です。
3.居抜き物件
居抜き物件は、既存の歯科医院・クリニックが閉院や移転により空き状態になった施設を利用して開業するタイプです。建物の内装や前の歯科医院・クリニックが残した設備を引き継ぐため、初期費用を大幅に削減でき、開業までの準備期間も短縮されます。
ただし、賃貸契約の場合は、保証金や賃料以外に設備の譲渡金が発生する可能性もあるため、契約内容をよく確認して検討することが重要です。
居抜き物件で歯科医院・クリニックを開業するメリット
歯科医院やクリニックを開業する際、物件選びは重要な決断の一つです。なかでも、居抜き物件を選ぶことは、多くの開業医にとって魅力的な選択肢となり得ます。居抜き物件は、以前に医療施設として使用されていた物件をそのまま活用することで、多くの利点を提供します。ここでは、居抜き物件を選ぶことの主なメリットを3つに分けて詳しくご紹介します。
1.開業資金を抑えられる
居抜き物件を選ぶ最大のメリットは、開業に必要な資金を大幅に削減できることです。レントゲンやユニットなどの医療機器、受付・待合室の家具やトイレなど、前の歯科医院・クリニックが使用していた設備や内装をそのまま利用することで、新規購入や設置のコストを節約できます。
賃貸契約の場合、設備の譲渡金が発生することもありますが、新規購入に比べればコストは低く抑えられます。また、外装や内装の大規模工事も不要なため、開業資金の節約になります。
2.開業までの期間を短縮できる
開業までの期間も大幅に短縮できることも居抜き物件のメリットです。既存の内装や設備の一部または全部をそのまま利用できるため、新たな内装工事、新しい設備の導入や設置にかかる時間を節約できます。特に、特殊な歯科医療機器や施設を新調する場合、発注から導入までには相応の時間がかかりますが、これを回避できるのは大きな利点です。
居抜き物件を利用することで、開業までのプロセスを効率化し、早い段階から患者の受け入れが可能になります。
3.集患しやすい可能性がある
地域での知名度を活用できることもメリットの一つです。前の歯科医院・クリニックの患者が引き続き来院することもあり、地域での知名度を利用して新たな患者を獲得することも可能です。
また、事業譲渡を伴うケースでは、患者データやスタッフも引き継ぐことができます。慣れ親しんだ環境で治療を続けられることは、患者にとっても大きなアドバンテージになるはずです。これにより、宣伝にかかる費用や手間、スタッフの募集やトレーニングなどの時間を省き、早期の段階から効率的に軌道に乗せやすくなります。
居抜き物件で歯科医院・クリニックを開業するデメリット
初期投資の削減や開業までの時間短縮など多くのメリットがある居抜き物件ですが、考慮しておきたいいくつかのデメリットもあります。これらのデメリットは、開業の計画や運営に影響を与える可能性があるため、慎重に検討することが重要です。ここでは、居抜き物件での開業における主なデメリットを3つ紹介します。
1.希望の設備や内装に変更するのが難しい
居抜き物件では、既存の設備や内装に制約があり、自分の理想とする設計に変更するのが難しい場合があります。例えば、新しい機器の設置に適さない建物の構造や、希望する診療室・待合室の配置ができないなどの問題が生じることがあります。
また、既存のデザインが自院のコンセプトやイメージに合わない場合もあります。このような制約が開業後の運営に影響を及ぼす可能性があるため、慎重に検討する必要があります。
2.追加投資・メンテナンスが必要になる
居抜き物件では、前の歯科医院・クリニックで利用していた設備や機器が劣化していることがあります。老朽化が進んでいる場合は修理や交換が必要になり、予期せぬ追加投資が発生する可能性があります。
また、引き継いだ設備が最新の安全基準・衛生基準に適合していない場合、基準に準拠した設備の買い替えが必要になる可能性もあります。設備がリース契約だった場合には、契約期間終了後に追加投資をしなければなりません。このような追加コストは、開業計画に影響を与える可能性があります。
3.前歯科医院・クリニックのイメージが残る
前の歯科医院・クリニックの評判やイメージは大なり小なり影響を与えます。良い評判はそれを生かせる一方で、評判が悪い場合は前のイメージに引きずられ、新規患者の受け入れに影響を及ぼす可能性があります。
適切なブランディングやマーケティング戦略を用いて、前のイメージからの差別化を図ることが重要です。
居抜き物件を選ぶ際にチェックするポイント
居抜き物件を選ぶ際には、チェックすべきポイントがいくつかあります。ここからは、特に押さえておきたいポイントを3つ紹介します。
1.以前の歯科医院・クリニックの評判
前の歯科医院・クリニックの評判が悪い場合は、その原因を把握し、改善策を講じることが重要です。
インターネットやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などを活用して前医院の口コミを調査し、患者が不満を抱えていた点や改善の余地を探りましょう。
2.立地条件
歯科医院・クリニックの開業においては、患者の利便性を最優先して選定することが極めて重要です。駅やバス停からのアクセス、交通の便、駐車場の有無など、患者にとっての利便性を確認し、特に高齢者や交通手段に制約のある患者にとっても利用しやすいかを考慮します。理想的といえるのは、周辺に住宅地やオフィス街など多くの人が行き交う場所です。
公共交通機関の利便性、人口密度、競合する医院の数なども集患率に影響を与える重要な要素です。
3.設備や内装の状態
居抜き物件の設備や内装の状態は、将来的な追加投資や修繕の必要性を判断する上で重要です。メンテナンスの履歴や最近の点検結果をチェックして、設備が正常に動作するかを確かめましょう。内装についても将来的なリフォームの必要性を見越して判断することが重要です。
内装の改修や設備のアップグレードに伴う費用も見積もりしておき、開業後の追加投資やメンテナンスに備えておく必要があります。
優良な居抜き物件を見極めて歯科医院・クリニックの開業をしよう
居抜き物件で歯科医院・クリニックを開業するには、開業資金と手間を節約できる大きなメリットがあります。また既存の患者層を引き継ぐことで、集患の可能性も高まります。一方で、内装の変更に制約があることや、将来的な追加投資・メンテナンスの必要性などデメリットも理解しておく必要があります。
優良な居抜き物件を見極めることは、スムーズな開業と将来的に安定した運営にもつながります。そのため、前の歯科医院・クリニックの評判や立地条件、設備、内装の状態など重要なチェックポイントを入念に調査することが不可欠です。慎重な物件選びを行い、開業に向けて着実に準備を進めましょう。