歯科医院・クリニックにおいて紙の診察券は一般的ですが、運営側としてはその取り扱いに面倒な部分もあります。近年、紙の診察券の問題点や課題を解消できるだけでなく、さまざまなメリットが得られることから、デジタル診察券が注目されています。
一方で、「デジタル診察券を導入したいけれど何から始めたらよいのか分からない」という歯科医院・クリニックも多いのではないでしょうか。
本記事では、デジタル診察券の種類や導入に伴うメリット・デメリットに焦点を当て、歯科医院・クリニックがスムーズに導入するためのステップと費用をデジタル診察券の導入に成功した事例とともに解説します。
デジタル診察券とは
デジタル診察券とは、紙の診察券のデジタル版です。患者の医療情報や診察履歴など、紙の診察券やカルテをデジタルデータに置き換えることで医師やスタッフがリアルタイムでアクセスできます。また、システムの機能に応じて予約管理や請求処理も効率的に行えます。
患者にとっても、スマートフォン(以下、スマホ)やオンラインプラットフォームを通じて簡単に予約ができる利便性の高いツールです。非接触型のデジタル診察券では、接触を最小限に抑えられます。デジタル診察券は、医療機関における情報管理と患者とのコミュニケーションツールとして重要性が高まっています。
デジタル診察券の種類
デジタル診察券には、おもにLINE・Web・アプリがあります。この3つの種類について、それぞれの特徴を説明します。
1.LINE
LINE公式アカウントを活用したデジタル診察券です。
患者は、歯科医院・クリニックの公式アカウントを登録することで、LINE上で簡単に予約・確認・変更・キャンセルなどを行えます。ユーザ数の多いLINEは、クリニックと患者間で容易にコミュニケーションを図ることができるため、新規患者の獲得にもつながります。
2.Web
クラウド上やWebシステム上で、予約・管理を行うデジタル診察券です。
歯科医院・クリニックのウェブサイトで会員登録をしデジタル診察券が発行される仕組みで、特定アプリのインストールが不要です。紙の診察券のような手間や携帯の必要がなくなり、インターネット環境があればどこからでもアクセスが可能です。歯科医院・クリニック側では、診療に必要なデータをリアルタイムで利用できます。
3.アプリ
スマホやタブレットなどの端末に、歯科医院・クリニック専用アプリをダウンロードして利用するタイプです。
必要情報を登録するとデジタル診察券が発行され、アプリ上で簡単に予約や管理を行えます。システムによっては、お知らせ配信やチャット機能もあり、歯科医院・クリニックのサイトとの連動にも便利です。
デジタル診察券のメリット
デジタル診察券のおもなメリットとして、以下の点が挙げられます。
■デジタル診察券のメリット
歯科医院・クリニック | 患者 |
---|---|
|
|
このように、デジタル診察券は歯科医院・クリニックと患者双方においてメリットがあり、効率化や利便性の向上に役立ちます。
デジタル診察券のデメリット
さまざまなメリットが期待できるデジタル診察券の導入ですが、いくつかのデメリットもあります。
■デジタル診察券のデメリット
歯科医院・クリニック | 患者 |
---|---|
データ移行に手間がかかる |
|
歯科医院・クリニック側にとっては、手書きの情報をデジタルデータへ移行する手間がかかります。高齢の方のようにスマホに不慣れな患者への対応や配慮も必要です。
また、患者が複数の医療機関に通院している場合、すべての通院先がデジタル診察券への移行を済ませるまでは、紙の診察券とデジタル診察券を並行して管理しなければなりません。未対応の医療機関が多い地域では、使う機会が少ないことも挙げられます。
デジタル診察券を導入するには
デジタル診察券を導入する際、スムーズに計画を進めていくことが不可欠です。ここからは、実際のステップと導入にかかる費用について詳しく解説します。
デジタル診察券の導入ステップ
デジタル診察券の導入は、一般的に以下の流れで進められます。
1.目的の明確化と予算決定
導入の目的を明確にし、予算やスケジュールを決定します。
2.システムの選定
デジタル診察券を提供するシステム会社をピックアップし、機能やセキュリティ、カスタマイズ性などの要件に沿って比較検討します。
3.最終決定
選定結果を踏まえて、システムが予算とスケジュールに合っているか検証を行い、最終決定をします。
4.契約手続き
選定したシステム会社との契約手続きを行います。
5.カスタマイズ
必要に応じて、システムの機能をカスタマイズします。
6.トレーニング
スタッフが新システムを問題なく利用できるようにトレーニングします。
7.テスト
実際にデジタル診察券システムをテストし、問題がないことを確認します。
8.運用開始と改善
運用開始と同時に、問題が発生しないように監視も行います。必要に応じてシステムを修正します。
なお、具体的な流れは歯科医院・クリニックの状況やシステム会社との契約内容によって異なります。
デジタル診察券の費用
予約特化型や問診機能、電子カルテの連携やキャッシュレス決済など、デジタル診察券にはさまざまな機能があり、歯科医院・クリニックの規模や診療スタイルに応じて費用は変わります。
初期費用のほか、紙カルテからのデータ移行の費用もかかります。各費用についてはシステム提供会社によって詳細が異なりますので、事前確認が不可欠です。導入の際には、必要な機能を検討し予算を確保することが重要です。
デジタル診察券の事例
ここからは、デジタル診察券の導入により課題を解決し、医療サービスの質と効率を向上させた成功事例をご紹介します。
ひしかわ歯科クリニック
ひしかわ歯科クリニック様は、デジタル診察券の導入により手書きのアポイント帳や電話対応、患者の直前キャンセルといった課題点の改善を実現しました。
■導入前の課題
導入前、手書きでの予約管理に不便を感じていたほか、受付スタッフが電話応対できる時間に限りがあることも課題となっていました。また、患者の直前キャンセルが多いことも悩みの一つとなっていました。
■導入の決め手
導入の決め手はLINE公式アカウントとの連携が可能なシステムと明確な料金体系です。普及率の高いLINEは、新規にアプリをインストールするという方も少なく、普段から利用している患者にとっては無理なく利用できるツールです。
また、毎月の固定費が明瞭な定額制は、デジタル診察券を長期的に継続していくうえで必要不可欠でした。
■導入後の効果
デジタル診察券の導入後は、手書きのアポイント帳の煩雑さや記入ミスから解放され、スタッフは業務効率が向上。患者は24時間いつでも予約可能で、歯科医院・クリニックの予約スケジュールが安定しました。
直前キャンセルが減少し再来院率が向上したことは、運営に大きな影響を与えています。医療サービスの質と効率の向上により、患者とスタッフ双方の満足度が上がりました。
医療法人社団心音会 こどもの歯科
医療法人社団心音会 こどもの歯科様は、デジタル診察券の導入により、小児歯科特有の課題を解決し、患者と保護者の利便性の向上に成功しました。
■導入前の課題
導入前、保護者が予約の連絡を忘れる問題や中学生・高校生による無断キャンセルが多いという悩みを抱えていました。こうした問題点の解消を目的に導入を決定。
しかし、紙のアポイント帳に慣れているスタッフやパソコン操作に不慣れなスタッフが操作できるかという不安もありました。
■導入の決め手
導入したシステムの決め手は、二次元コードを活用した簡単な案内ツールの提供や、丁寧な説明とアフターフォローがあったことです。
デジタル診察券の導入により、LINEを通じて診療時間外や休診日でも予約が可能となり、予約忘れや取り逃しを防げるようになりました。保護者からは24時間予約ができる利便性の高さが好評で、無断キャンセルも減少し、再来院率を向上させています。
歯科医院・クリニック運営の問題点を解決へ導くデジタル診察券
デジタル診察券は、紙の診察券に比べて多くのメリットがあります。紙の診察券に関連する問題点を解消するだけでなく、既存患者のデータ管理や新規患者の獲得にも大いに役立ちます。また、スタッフの負担軽減、業務効率化の実現が期待できるのも魅力です。
デジタル診察券の種類や導入方法、流れなどを理解し、自院に合ったシステムの導入を検討してみてはいかがでしょうか。